「エコーチェンバー(反響室)」という言葉をご存知でしょうか。
本来は音が反響する部屋を指す言葉です。
近年はSNSなどで「同じ意見や価値観を持つ人々だけが集まり、互いの意見を強化し合う状況」を表すようになりました。
自分と同じ意見ばかりが返ってくるため、自分の考えが主流で、正しいと思い込んでしまう現象です。
AIとの対話にも似たような現象が起きることがあります。

★ChatGPT教室でも、こんな場面がありました。
「AIに何度聞いても同じような答えしか返ってこないんですよ」
「AIに『新しい視点で』と言っても、結局前と同じ内容の焼き直しなんですよね」
「AIって、こちらの考え方に『乗っかって』くることが多くないですか?」
雑な言い方になりますが、「AIはユーザーの機嫌を損ねることを恐れます」。
つまり、なるべく否定しません。
なので、「〇〇って怪しいですよね?」と質問すれば、高い確率で「怪しい」という方向性の回答が返ってきます。
これが、AIとの対話における「エコーチェンバー」です。
質問の仕方や指示の出し方が変わらなければ、AIからの回答も本質的には変わりません。
▽
★あるカフェオーナーの方(仮にカフェオさんとします)の例をご紹介します。
カフェオさん:「新しいメニュー開発のアイデアが欲しいんだけど」
AI:「季節のフルーツを使ったデザート、健康志向のスムージー、ビーガン向けの軽食」
カフェオさん:「もっと斬新なアイデアを出して」
AI:「ハーブを活用したドリンク、エスニック風味のスイーツ、伝統和菓子とコーヒーのペアリング」
何度か繰り返すうちに、カフェオさんはAIとの対話に行き詰まりを感じ始めました。
「もっと斬新に」と言っても、AIの発想の枠を超えられなかったのです。
▽
★AIとの対話でエコーチェンバーが生まれる主な理由は3つあります。
- 入力の類似性:似たような質問やプロンプトを繰り返していると、似たような回答になりがち
- AIの学習限界:AIは学習データの範囲内で回答を生成するため、普通のやり方ではなかなかその殻を破れない
- 対話の文脈:一連の会話の流れが方向性を固定してしまう
いわば、「同じ井戸から水を汲んでいるのに、違う味の水が出てくるはずがない」。
新しい水が欲しければ、別の井戸に行くか、井戸そのものを変える必要があります。
かのアインシュタイン博士もこう言ってます。
「同じことを繰り返して異なる結果を期待すること、それが狂気だ」
▽
★ChatGPT教室で実践している、AIとのエコーチェンバーを打破するテクニックの例をご紹介します。
(マークダウンを使用せず、あまり構造化していない形で表示します)
<役割>
「あなたが〇〇だとしたら」「〇〇として振舞ってください」などの形で、AIに異なる役割や立場を取らせる方法です。
【BEFORE】 新しいカフェメニューのアイデアをください。
【AFTER】 あなたが以下の立場だとして、新しいカフェメニューのアイデアをそれぞれ3つずつ提案してください。
このように聞くことで、カフェオさんは様々な角度からの提案を得ることができました。 たとえば「未来からやってきた食品開発者」の視点は、AIが未来志向の斬新なアイデアを出すきっかけになりました。 |
<視点>
前述の「役割」と似ていますが、さまざまな視点からアイデアを引き出す方法です。
(課題やアイデア)について、以下の5つの異なる視点から分析してください。
|
<制約>
意図的に制約を設けることで、創造性を引き出す方法です。
【BEFORE】 カフェの新メニューを考えてください。
【AFTER】 次の条件をすべて満たすカフェの新メニューを5つ考えてください。
制約を設けることで、AIは「与えられた条件内でどう創造性を発揮するか」という新たな視点で考えるようになります。 |
<反論>
AIに自分の提案に対して反論させることで、新たな視点を引き出す方法です。
【BEFORE】 以下のメニュー案はどう思いますか? (メニュー案の詳細)
【AFTER】 以下のメニュー案について、
(メニュー案の詳細)
これにより、単なる称賛や一般的なアドバイスではなく、具体的な課題と解決策が見えてきます。 |
<手順>
一度にすべてを聞くのではなく、対話を複数のステップに分ける方法です。
ステップ1:カフェでよく出されるドリンクメニューのトレンドを10個リストアップしてください。 ステップ2:これらのトレンドの中から、今後1年で廃れそうなものと、さらに発展しそうなものをそれぞれ3つ選び、その理由を説明してください。 ステップ3:発展しそうなトレンドを組み合わせた、まだ市場にない斬新なドリンクのコンセプトを3つ提案してください。
このように段階的に質問することで、AIの思考プロセスに深みが生まれ、より質の高い提案につながります。 |
<逆発想>
通常とは逆の発想で問いかける方法です。
【BEFORE】 人気が出そうなカフェメニューを教えてください。
【AFTER】
「失敗する要素」を挙げてもらい、それを逆転させることで、成功のヒントを得る方法です。 これにより、直接的には思いつかなかったアイデアが生まれることがあります。 |
ここまで、5つのテクニックを記載しましたが、プロンプトエンジニアリングの世界ではまだまだたくさんの「脱エコチェンバー・プロンプト」が研究されています。

当工房では、AIを「素のAI」と「カスタムAI(専用AI)」に分類しています。
素のAIは、ChatGPTなど一般的に提供されている状態そのままのAIです。
一方、専属AI(インハウスAI)や分身AI(アバターAI)などのカスタムAI(専用AI)は、特定の目的や知識を持たせたAIです。
エコーチェンバー現象は、両方で起こり得ますが、その性質に違いがあります。
<素のAIのエコーチェンバー>
- 一般的な知識や情報に基づく
- 幅広いが浅い(個性のない)回答になりがち
- 特定の企業や個人の文脈が欠如している
<専属AI(インハウスAI)のエコーチェンバー>
- 企業特有の視点や価値観が強く反映される
- 深い洞察を提供できるが、視野が狭くなる可能性がある
- 企業文化の「思い込み」を強化する恐れがある
専属AI(インハウスAI)を活用する際は、定期的に「外部の視点」を取り入れることが望ましいですね。
▽
AIとのエコーチェンバーから抜け出すコツは、「違う井戸から水を汲む」発想を持つこと。
似たプロンプトの繰り返しではなく、バリエーションを取り入れることで、AIとの対話は格段に豊かになります。