「こんなものか」になる人、ならない人

新しいテクノロジーに触れるとき、私たちは大雑把に2通りの反応を示します。

1つは、初期の興奮が冷めた後、「なるほど、こんなものか」と静かに納得して日常の道具として位置づける反応。

もう1つは、「これはすごい!もっと知りたい」と好奇心が加速し、その可能性に夢中になる反応です。

スマートフォンが登場したとき、単なる「電話ができる機械」と捉えた人もいれば、「生活を変える可能性を秘めた革命的ツール」と感じた人もいました。

結果として、後者の視点を持った人々が新たなアプリやビジネスモデルを生み出し、世界を変えていきました。

 

私自身、「こんなものか」となった経験があります。

もう5年以上前になると思いますが、アレクサ(アマゾンエコー)を購入して初めて会話したときです。

最初は面白かったのですが、しばらくすると飽きました。

「こんなものか」となって、興奮がおさまりました。

その後は、灯りをつけたり消したりするとき、明日の天気を知りたいとき、音楽を聴きたいときにしか使っていません。

もちろん、便利なときは便利なので、重宝しています。

 

しかしChatGPTの場合はまるで違いました。

「こんなものか」にはならなりませんでした。

AIとの対話は単なる「質問と回答」ではなく、自分の思考を整理する鏡のような役割を果たすことに気づいたからです。

また、自分にできないことができると感じたからです。

探求すべき世界がそこにある、と思いましたね。

 

私はそのままChatGPTにのめりこみました。

睡眠時間もかなり減りましたが、眠くなりませんでした。

 

 

ChatGPT教室の参加者も、大きく2つのタイプに分かれるようです。

 

一方は、「へぇ、面白いけど、結局こんなものか」と感じる人。

いくつか質問を試してみて、AIが返す回答に一定の感心はするものの、それ以上の探究心は湧かないタイプです。

 

もう一方は、「これはすごい」と目を輝かせ、次々と新しい質問を試す人。

AIとの対話を通じて自分の思考を整理したり、新しいアイデアを生み出したりするプロセスに喜びを見出すタイプです。

 

この違いは何から生まれるのでしょうか?

 

 

「こんなものか」になる人には、いくつかの共通点があります。

 

まず、AIを「便利な検索エンジン」または「質問に答えてくれるツール」程度に捉えています。

つまり、既に持っている道具の延長線上で見ている。

 

また、AIとの一方通行のコミュニケーションに留まる傾向があります。

「これについて教えて」と質問し、回答を得たらそこで終わり。

対話を重ねて深掘りしていくプロセスを楽しむという発想にはならないようです。

 

AIを道具としてしか見ていないため、「自分の能力を拡張する存在」という視点が欠けています。

「自分にできないことをAIができる」という発見よりも、「AIにできないことがある」という限界に目が行きがちです。

 

 

AIに夢中になる人には、別の特徴があります。

 

まず、AIを「対話するパートナー」として捉えています。

単なる機能ではなく、自分の思考を映し出す鏡、あるいはアイデアを一緒に発展させる相手として接しているのです。

 

また、探究心が旺盛です。

「こうしたらどうなるだろう?」「別の角度から質問したら?」という好奇心が尽きません。

AIとの対話は、未知の可能性を探る冒険のようなものになります。

 

そして最も重要なのは、AIを通じて「自己の拡張」を体験していることです。

自分1人では思いつかなかったアイデアが生まれたり、考えが整理されたりする喜びを味わっています。

AIは自分の頭脳の延長として機能し始め、新たな創造性を引き出してくれるのです。

 

 

私がChatGPTに魅せられたのは、まさにこの「自己の拡張」を体験したからでした。

1人で考えるよりも、AIと対話しながら考えるほうが、思考の幅が広がり、深まることに気づいたのです。

 

例えば、ある企画を立てるとき。

自分だけで考えると思考が同じパターンに陥りがちですが、AIと対話することで、思いもよらない角度からのアイデアが生まれます。

創造性の高い優秀なパートナーと一緒に仕事をしているような感覚です。

 

ビジネス上の課題を整理するときも同様です。

モヤモヤとした問題意識をAIに伝え、対話を重ねていくうちに、問題の本質が明確になっていくことがあります。

これは単なる「答えを教えてもらう」のではなく、自分の思考を外在化し、整理する手助けをしてもらうプロセスです。

小規模ビジネスのオーナーにとって、このAIとの共創は特に価値があります。

大企業であれば様々な専門家やコンサルタントを雇うことができますが、小規模ビジネスではそれが難しい。

しかしAIを活用すれば、一人でも多角的な視点を得ることができるのです。

 

ただし、それは「こんなものか」と思わずに、AIとの対話を深める努力をしたときに初めて得られる恩恵です。

 

たとえば、単に「マーケティングのアイデアを出して」と頼むだけでなく、「このような顧客層に、このような強みをアピールするには、どのようなアプローチが考えられるか」と具体的に問いかけ、その回答を踏まえてさらに質問を重ねていく。

そうした対話を通じて、自分一人では思いつかなかった視点や戦略が見えてくることがあります。

 

 

AIとの共創を楽しむための鍵は、AIを「面白がる」という姿勢にあるのではないでしょうか。

 

「これはどう答えるのだろう?」「こんな使い方はできないだろうか?」という好奇心を持ち続け、遊び心を忘れないこと。

テクノロジーを単なる道具ではなく、創造性を刺激するパートナーとして接することで、AIとの関係性は豊かなものになります。

 

ChatGPT教室の参加者の方々が最初に驚かれるのも、この「AIとの対話が意外と面白い」という発見です。

「こんなに楽しかったとは思わなかった」という感想をよくいただきます。

 

 

さて、あなたはどちらのタイプでしょうか?

 

AIと出会って「こんなものか」と感じるタイプ?

それとも、AIとの対話に新たな可能性を見出すタイプ?

 

もし前者だとしても、それを非難するつもりはありません。

ただ、もしかしたらAIとの対話にまだ見ぬ魅力があるかもしれない。

少し視点を変えて、AIを「対話するパートナー」として接してみると、新たな発見があるかもしれません。

 

AIとの共創は、まだ始まったばかり。

「こんなものか」で終わらせるには、あまりにももったいないと思います。