なぜAIは「察する」が苦手なのか

「すごく優秀なんですけど、『察してよ』って思うこともまあまあありますね」

AIコンサル工房のお客様からよく聞く率直な感想です。

 

確かに、ChatGPTやClaudeやGeminiと対話していると、

「なんでそこまで説明しないと分からないの?」

「もう少し空気を読んでよ」

と感じることがないでもありません。

 

この「察してくれない」というフラストレーション、AIと日本文化の特性が交差する興味深いポイントでもあります。

私たち日本人は

「以心伝心」

「あうんの呼吸」

といった、言葉にしなくても心が通じ合うコミュニケーションを大切にしてきました。

狭い島国で先祖代々暮らしてきた結果、共通の情報や文脈がすでに私たちの間に深くインプットされています。

 

一方、現在のAI、特に生成AIは、基本的に「与えられた情報」をもとに動作します。

情報になっていないもの、つまり言葉にされていない意図や文脈に隠された意味を読み取るのは、AIにとって相当難しいタスクです。

日本文化の「以心伝心」を生み出す共通の情報が、AIにはインプットされていないのです。

(言い換えれば、それを十分にインプットすれば「以心伝心」を読み取るでしょう)

 

「以心伝心がないと、面倒くさいなあ」と思われるかもしれません。

しかし、この「面倒くささ」が思わぬメリットを生むのです。

 

例えば、業務マニュアルを作る場合を考えてみましょう。

人間同士だと「察してよ」で済ませてしまいがちな部分も、AIには細かく説明する必要があります。

その過程で、実は自分も曖昧に理解していた部分が明確になったり、新しい気づきが得られたりします。

 

AIと対話することで、私たちのコミュニケーションの特徴や課題にも気づけるのです。

「察する」文化は美しい一方で、時として情報伝達を曖昧にしてしまうという側面もあるからです。

 

 

では、専属AI(インハウスAI)なら違うのでしょうか。

 

あなた専用の専属AIは、あらかじめあなたのことやあなたのビジネスの文脈を学習しています。

したがって、相当程度の「察する」能力を持ちます。

 

ただし、これは「察する」というより、事前学習による「適切な推測」だと考えた方が正確でしょう。

つまり、かなり察してくれるけれど、人間のような察し方ではないということです。

 

専属AIといえども、できるだけ明確なコミュニケーションを心がけるに越したことはありません。

AIは察しないと言いましたが、情報を与えれば察します。

事前学習による「適切な推測」という意味ではありますが。

なので、関連する背景情報を伝えた上で指示を出すことが重要であり、効果的です。

 

もしAIの回答が「思ったのと違う」だったら、多くの場合、それは背景情報が足りないことに原因があります。

そんな時は、背景情報を追加してみてください。

 

最近の生成AIは、文脈理解力を着実に向上させています。

厳密には「察する」というより、より多くのパターンを学習して適切な応答ができるようになってきているのですが、これを「察する」と解釈してもよいかもしれません。

 

「察する」能力が足りないからといって、必ずしもネガティブなことではありません。

「察しない」からこそ新しい視点をもたらしてくれるパートナーとして付き合うのも面白いものです。

人間同士だって、他国の人、多言語の人と交流する場合は、「察する」は期待できないですから。

 

  • 日本文化にあるような以心伝心を期待するのではなく、AIの特性を理解した上での新しい関係性を築いていく。
  • 「察してよ」というフラストレーションを感じたら、「ああ、これはAIの特性だな」と受け止めて、むしろそれを活かす方法を考える。

それが、当面のあいだ、AI活用の鍵になるのではないでしょうか。

 

AIは日々進化していますが、その特性を理解することで、より効果的な活用が可能になります。

AIならではの付き合い方を見つけて、新しいワークスタイルを楽しんでいきましょう。