プチ懐古のビジネスモデル

「もはや時代遅れ」と思われた製品が、突如として市場で再評価されることがあります。

さすがに大昔の製品のリバイバルは少ないですが、「少々昔のもの」であればけっこうあるようですね。

 

これをビジネスモデルのヒントとして見てみましょう。

今回は、テクノロジー業界で起きている「古いものの復権」について。

テクノロジーの進化は直線的であると考えられがちですが、実際には「螺旋状」に進むことがあります。

たとえば、スマートフォンに完全に取って代わられたと思われていた昔のデバイスが、密かに復活しています。

  • 音楽プレーヤー
  • 専門的な電子機器
  • デジカメ

など、一度は「スマホに統合された」と思われた製品群が、再び独立したデバイスとして支持を集めているのです。

 

 

この現象を理解する5つのポイントを挙げてみました。

 

<感覚的価値>

 

最新技術がすべてを解決するわけではありません。

むしろ、あえて「不便」や「制約」を選ぶことで得られる体験価値があります。

 

たとえば、特定の機能に特化した製品は、操作が単純である分、使用者の意識を「今この瞬間」に集中させます。

この「没入感」は、多機能製品にはない価値となります。

 

<心理的所有感>

 

汎用デバイスでは得られない「これは特別なもの」という感覚が、製品への愛着を生み出します。

 

顧客が「これは私のもの」と感じる度合いが強いほど、愛着は高まります。

「みんなが持っているもの」よりも「自分だけの特別なもの」を求めるのは、人間の性でしょう。

 

<デジタル疲れ>

 

ネットに接続された状態から離れたいという欲求は、現代人の強いニーズです。

特定の目的だけに使用するデバイスは、ユーザーに「解放感」を提供します。

 

この「デジタルデトックス」の価値は、今後ますます高まるでしょう。

 

<個性>

 

「完璧」よりも「個性的」な結果を求める消費者が増えています。

デジカメで撮った写真は最新スマートフォンのものより品質は粗いかもしれませんが、独特の味があります。

そこが好まれたりします。

技術的に「劣る」製品が、あえて選ばれるのはここです。

 

標準化された出力ではなく、その製品ならではの特徴的な結果(たとえば独特の色合いや質感)を提供できれば、それは差別化要因になります。

 

<希少性>

 

一度市場から退場した製品は、供給が限られることで希少価値が生まれます。

 

この「希少性」は戦略的に創り出すこともできます。

限定生産や期間限定リリースなどの手法は、単なるマーケティング戦術ではなく、製品自体の価値を高める戦略となり得ます。

 

 

私たちはついつい「二項対立」でものを見がちです。

「新しい vs 古い」

「ハイテク vs ローテク」

とか。

 

しかし。そういった単純な二項対立では、ここでいう「プチ懐古のビジネスモデル」は発想できません。

「古いもの、不便で不完全なもの」=「ダメ」

というわけではないということですね。

 

時代に逆行するように見える現象の中にも、ビジネスモデルのヒントが隠れています。

過去の製品や技術が再評価される(というか、面白がられる)現象は、消費者心理のインサイトを理解するよい機会だと思われます。

さて、ここまで「少々昔のもの」が再評価される理由をお話ししました。

次は、AI時代の私たちがこれらの「プチ懐古ビジネスモデル」をどう活用するかです。

 

AIという言葉を聞くと、多くの人は自動化や効率化、最先端技術を連想します。

しかし実際には、AIを活用したからといってすべてが最先端になる必要はありません。

「AI」と「懐古」という一見相反するものを組み合わせることで、新しい魅力が生まれます。

 

 

AIを使ってできることは、単純な効率化や自動化だけではありません。

「感覚的価値」や「心理的所有感」、さらに「デジタル疲れ」にもAIが活躍する可能性があります。

 

たとえば、ある小さな書店は、紙の本を愛する人々のために、AIでそれぞれの顧客の趣味趣向を分析し、「あなただけのおすすめセット」を毎月郵送するサービスを始めました。

AIが顧客の過去の購買履歴や趣味を分析し、ぴったりな本を選んでくれるのですが、商品そのものはあくまで「アナログな紙の本」。

 

「個性」や「希少性」を生み出す戦略としてもAIは良きパートナーです。

ある個人経営の写真館では、AIがあえて昔のカメラで撮影したような質感や色合いを再現することで、スマホ写真全盛の今だからこそ「味わいのある写真」を提供しています。

最先端のAIが「あえての昭和風写真」を創り出すという、ユーモラスで魅力的なサービスが人気を呼んでいます。

 

「専用AI」という概念を活用すれば、個人や小規模ビジネスでも自分たちの特性やこだわりを深く理解したAIパートナーを持つことができます。

あなたのビジネスやお客さまの嗜好を学習したAIが、懐かしさや温もりを感じさせる独特の商品やサービスを企画・提案してくれるのです。

 

 

「プチ懐古のビジネスモデル」とAIは、案外、相性が良いのです。

大切なのは「古いか新しいか」ではなく、「自分たちが提供したい価値を明確にし、それをAIの力を借りて強化すること」なのでしょう。

 

こう考えると、私たちのAI活用の視野も広がりますね。

「時代遅れ」なものでもAIと組み合わせれば新たな魅力を引き出せるかもしれない。

自由で柔軟な発想を、私たちの武器としておきたいものです。