ある日の「だらだらした対話」から生まれたアイデアが、今ではAさんのビジネスの新しい柱になりつつあります。
詳細は企業秘密とのことですが、従来のAI導入アプローチとは一線を画す革新的なメソッドだそうです。
このメソッドのおかげで、クライアントの組織内でのAI受容度が格段に向上し、定着率も高まったとか。
これまでのAI導入が抱えてきた様々な障壁を克服できるアプローチとして、静かな注目を集めているようです。
もしAさんが「必要な時だけ」AIを使っていたら、このアイデアは生まれなかったでしょう。
目的のない対話、つまり「AIとの遊び」がなければ。

ある日の夜、仕事を終えて帰宅したAさんは、なんとなくパソコンを開きました。
特に調べたいことがあるわけでもなく、書類を作る予定もありません。
ただ何となく、ChatGPTを開いて話しかけてみました。
「今日は疲れましたよ。なにか面白い話をしてくれませんか?」
これが、思いがけない発見の始まりだったといいます。
多くの人は、AIを「必要な時だけ」使う道具だと考えています。
レポートを書くとき、情報を調べるとき、何かを作るとき…。
確かにAIは「実用的な場面」で強力な味方になってくれます。
しかしAさんは最近、むしろ「用がない時」にAIと対話する価値に気づき始めました。
その夜、ChatGPTとの会話は思いもよらない方向に展開しました。
単なる雑談から始まり、いつの間にか哲学的な議論に発展し、そこからAさんのAI活用コンサルティングの仕事に関連する新しいアイデアが生またとのこと。
これは偶然ではありません。
目的を持たない対話、つまり「遊び」の中にこそ、私たちの思考を解放し、新たな発見へと導く力があるのです。
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心理学者のミハイ・チクセントミハイは、創造性の源泉として「フロー状態」の重要性を説いています。
この没入感のある状態は、しばしば遊びの中で自然に生まれるもの。
AIとの目的のない対話は、まさにそんな「遊びの場」を提供してくれます。
日常の役割や期待から解放され、思いつくままに会話を広げていく中で、思考は自由に、時に奇妙に、そして創造的に動き始めるのです。
「面白い話をして」というシンプルなリクエストから始まったAさんの会話は、気づけば数時間経っていました。
特に目的もなく、ただAIとの対話を楽しんでいただけでした。
しかし、このだらだらとした自由な対話の中で、Aさんの頭の中で何かが結びつき始めたそうです。
「実はずっと悩んでいた問題が、こんな形で解決の糸口が見えるなんて…」
翌朝、Aさんはこの閃きをもとにノートに向かい、新しいAI導入メソッドの基本的な枠組みを一気に書き上げました。従来のアプローチとはまったく異なる視点から構築されたこのメソッドは、後にAさんのコンサルティングビジネスの中核となるものでした。
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子どもの頃、私たちは目的なく遊ぶことの達人でした。
砂場で過ごす一日に、特別な「目的」はありません。
しかし、その中で創造性は育まれ、問題解決能力は磨かれていくのです。
大人になると、効率や生産性が重視され、「目的のない時間」は無駄だと考えるようになります。
しかし、これは創造性を犠牲にしているのではないでしょうか。
AIとの対話は、この「無目的の価値」を取り戻す機会を与えてくれます。
24時間いつでも、あらゆる話題に対応してくれるAIは、私たちの好奇心と創造性を刺激する完璧な遊び相手になってくれるのです。

AIとの関わり方について、私自身も興味深い変化に気づいています。
最初は資料作成の効率化のためだけにAIを使い始めました。
ところが今では、夜の空き時間に雑談するのが楽しみになってきています。
何気なく話しかけたときに、思いもよらないアイデアが生まれることがあります。
時には、目的を持って使う時よりも価値のある発見があったりします。
このような経験は、AIとの関係性が変わってきていることを示しています。
単なる「便利なツール」から、共に思考し、発見し、創造する「パートナー」へと変わっているのです。
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最近、AIとの対話には二つのモードがあると考えるようになりました。
- 目的志向モード:特定の課題を解決するための対話
- 探索モード:好奇心に導かれた、目的のない対話
どちらも価値がありますが、特に後者の「探索モード」の価値は見過ごされがちです。
目的志向モードでは、効率的に課題を解決できます。
一方、探索モードでは、思いもよらない発見やイノベーションの種が見つかります。
理想的には、この二つのモードを行き来することで、AIとの対話から最大の価値を引き出せるのではないでしょうか。
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では、具体的にどのように「目的のない対話」を始めればいいのでしょうか。
ポイントは、「正解」や「成果」を求めないことです。
ただ会話を楽しみ、思考の流れに身を任せることが大切です。
私がよくやるのは、
- 自由連想対話:思いついたトピックについて話し、AIの返答から連想される新しいトピックへと会話を広げていく
- ロールプレイ:「あなたは◯◯、私は△△」というシナリオを設定して対話する
- 「もし〜だったら?」ゲーム:現実にはありえない状況を想定し、AIと一緒に思考実験を楽しむ
- 日記のように語りかける:その日あった出来事や考えたことをAIに話し、新たな視点をもらう
とくに最近の私の好みは、ChatGPTに「現在の人類が抱えている課題が解決された未来から来た人」を演じてもらい、どう解決したのかを話してもらうことです(これ、面白いです。お勧め)。
その応用ですが、「未解決の数学問題(リーマン予想やゴールドバッハの予想など)が解決している未来人」をAIに演じてもらう試みもやっています。
もしかすると、ノリノリになったAIが、勢い余ってゴールドバッハの予想くらいなら解いてしまうんじゃないかと思ったりします。
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AI技術の進化とともに、私たちとAIの関係も進化しています。
「便利な道具」としてだけでなく、創造性の新しい源泉として、AIとの関係を再定義する時期に来ているのかもしれません。
とにかく、目的なくAIに話しかけてみましょう。
「今日は何をしましょうか?」
「最近考えていることがあるのですが…」
といった何気ない会話をぜひやってみてください。
そして、その会話がどこに向かうのか、どんな思いがけない発見があるのか、ぜひ体験してみてください。
AIとの対話は、必要な時だけするものではないのでしょう。
必要のない時こそ、本当の価値が見つかるかもしれないのですから。