生成AIの進化は目覚ましいですね。
しかし、逆にそれで困る人もいるかもしれないって話です。
「AIはもっと速く、正確に」という時代の流れに逆らっているようですが、あえて言います。
「いまのAI、ちょっと速すぎないか?」と。

リモートワークの広がりで、家事をしながら仕事をする人も増えました。
- ChatGPTしながら家事
- 家事しながらChatGPT
という場面も増えてきたと思われます。
企画を考えたり、メールの下書きを作ったり、ブログ記事を書いたり…そんなときChatGPTに頼ると、すぐに回答が返ってくるのは確かにありがたいですね。
しかし、ここで問題が発生します。
「家事の合間にChatGPTを動かす」あるいは「ChatGPTの合間に家事をする」をやりたいのに、なんかうまくいかない。
だって、ChatGPTが「速すぎる」から。
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この問題、シングルタスク型かマルチタスク型かによっても感じ方が異なりそうです。
シングルタスク型は、1つの作業に集中して丁寧に進めることを好むタイプ。
同時進行でやらなくても、順にやればいいと考えます。
まずAIで仕事して、それが済んだら家事をする。
なので、ChatGPTが「速すぎる」とはあまり思わないかもしれません。
いっぽう、マルチタスク型は、複数の作業を同時進行で行うことを好むタイプ。
ChatGPTが仕事をしている合間に、シンクに置きっぱなしの皿を食洗器に入れようと考えます。
ところが、ChatGPTときたらあっという間に回答を出すので、「合間」というものが生まれません。
また次のプロンプトを入れなくちゃ、となってしまいます。
その結果、仕事は進むでしょう。
でも、「仕事が進んだ」よりも、「マルチタスクができなかった。思うように家事が進まなかった」という印象のほうが強くなる。
「自分のペースでやれていない、追われてる感」も出る。
ChatGPTが「速すぎる」のです。
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ChatGPT教室の雑談でこの話をしたら、同席者たちから共感の声が。
「それ、めっちゃ分かる。生成AIのスピードが速すぎて、『待つ時間』がないから、家事との相性が意外と悪いっていう話ですよね」
「『この間に洗濯物を干そう』とか『今のうちにちょっとコーヒー淹れよう』みたいなスキマ時間ができないんですよねえ」
「AIは秒で返事をしてくるから、こっちが追いつかない」
要するに、マルチタスク型の人間にとっては、「AIが考えている間に○○しよう」というリズムを作りたいのに、その「間」が生まれないのが何ともやりにくい。
それどころか、「AIの回答待ちでPCやスマホをずっと注視する状態」になりがち。
これは意外なストレスかもしれません。

この問題を解決する方法として、「AIの応答速度を調整する機能」があってもいいのではないでしょうか?
いわば、「のんびりモード」。
すぐに答えを返さず、数分、じっくり「考えたフリ」をしてくれるAI。
その間に、ユーザーはコーヒーを淹れたり、洗濯物を畳んだりできる。
そして、ちょうどいいタイミングでAIの返答が来る。
…そういうの、意外と需要があったりして。
これって「能力があるのは分かるけど、発揮しなくていいよ」みたいな感じですけどね。
でも、そのような例はたくさんあります。
- スポーツカーでない普通の乗用車も時速200キロ近く出す能力はあると思いますが(スピードメーターも200キロ近くまで表示している)、そんな能力、通常では求められていません。
- 近年のスマホのカメラは高性能で、一眼レフ並みの画質で撮影できます。しかし日常的にはそんな高性能を発揮しなくても十分です。
- 「弱いロボット」という概念があります。あえて不完全さや弱点を持つように設計されたロボットのことで、人間との相互作用や共感を促進することを目的としています。ゴミを認識することはできても、自分で拾い上げることができない「ゴミ箱ロボット」などの例があります。
なので、AIだっていつも全力疾走しなくてもいいんじゃない?
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じつは、「能力を発揮しなくていいよ」パターン以外で、「のんびりモード」に見える機能がChatGPTやGeminiなどには、あります。
最近登場した「ディープリサーチ(Deep Research)機能」です。
「ディープリサーチ(Deep Research)機能」とは、生成AIが事前学習した知識だけでなく、インターネット上の様々な情報源にアクセスして、より包括的で正確な回答を作成する機能です。
この機能を使うと、AIは複数のウェブサイトから情報を収集・分析し、それらを統合して詳細なレポートを作成します。
通常の回答よりも時間がかかりますが、その分、深い調査に基づいた信頼性の高い情報を提供することができます。
厳密に言うとこれは「のんびりモード」ではありません。
ディープリサーチ(Deep Research)中のAIはのんびりしているどころか、「多数のウェブサイトを検索して内容を吟味し、何度も推論を重ねながらレポートを出す」ことに大忙しです。
タスクの量が多くて時間がかかっているわけで、わざと時間をかけているわけではありません。
それでも、入力と出力のあいだに数分間の時間差があるため(今のところは、ですが)、ある意味「のんびりモード」の役割を果たしているように見えます。
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雑談でこの話をしたら、またもや反応が。
「それ、めっちゃおもしろい発想ですね。ディープリサーチの待ち時間が『ちょうどいい家事タイム』になるなら、むしろ積極的に活用するのもアリかも」
「普通のAIの応答だと速すぎて『はい、次、はい、次』って感じでこっちが流されるけど、ディープリサーチなら『とりあえずリクエスト投げて、その間に皿洗って洗濯物たたんで』みたいなリズムが作れるかも」
「ただ、何でもかんでもディープリサーチにすると、シンプルな質問にも数分待つハメになるから、そこが問題ですね。『今日の天気は?』とか『簡単な表現の言い換え』までディープリサーチするのは、むしろ無駄な気がします」
最後の意見はまさにそのとおりで、生成AIは私たちの見えないところでかなりの電力を消費しています。
私たちはそのことにも思いを馳せ、リソースの浪費を避けたいものです。
ディープリサーチを「のんびりモード」に使うなら、タスクの種類に応じて適切に使い分ける配慮が必要ですね。
シンプルな質問は即答でいいし、深く考えてほしいときだけ、時間をかけてもらう。
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この話、もっと広い視点で考えると、私たちとAIの「ちょうどいい距離感」の話でもあります。
現在のAIは、「速く正確に答える」ことに最適化されています。
しかし、それが人間のワークスタイルやリズムに本当に合っているかどうかは、また別問題。
人間どうしの協働の場合、依頼してからアウトプットを受け取るまで時間差があります。
「これをお願いします」「はい、夕方までにやっておきます」
という流れで、夕方までスキマが空くので、その間に別のことをする。
でもAIでは答えが超速で出るので、勝手が違います。
会話においても同じことが言えるかもしれません。
人間同士の会話では、相手が考えている間にこちらも考えを整理できます。
しかし、AIはすぐに答えを出すため、考えを深める余裕が生まれにくいのでは。
だからこそ、「ちょっと待つ時間があるAI」には、それなりの価値があるのではないでしょうか。