見える見えないのビジネスモデル

ビジネスの世界で、「日本人はモノには金を払うがサービスには払わない」という言葉をよく耳にします。この「モノ」と「サービス」の違いは、マーケティングでは「見える(tangible)」と「見えない(intangible)」という概念で説明されます。

実はこの「見える」「見えない」という区分が、ビジネスモデルを考える上で重要なヒントになります。特に、AIが急速に発展している今、この区分に新しい可能性が生まれています。

今回は、「見える」と「見えない」の関係性から、ビジネスモデルの設計のコツと、AIがもたらす新しい可能性についてお話ししていきましょう。

「見える」vs「見えない」

「日本人は、モノにはお金を払うが、サービスには払わない民族だ」

と、しばしば言われます。

 

ここでいう「モノ」とはマーケティング的にいうと

「tangible(タンジブル)」

ともいい、これは

「目に見える」「形になっている」

という意味です。

 

同様に「サービス」は

「intangible(インタンジブル)」

ともいい、こちらは

「目に見えない」「形になっていない」

という意味になります。

 

例をあげると

  • パソコン
  • 缶ビール
  • ランニングシューズ
  • マンション
  • 漫画本

などは tangible です。

商品が目に見える「モノ」だから。

 

いっぽう、

  • エステ
  • 旅行の手配
  • 演劇
  • 病院での診察
  • 予備校の授業

といったサービスは intangible となります。

商品が目に見えない「サービス」だから。

日米の違い

さて、intangible(見えない)なものであっても、上述したような

  • エステ
  • 旅行の手配
  • 演劇
  • 病院での診察
  • 予備校の授業

などについては、日本人もその価値をだいたい認識しています。

なので、それなりのお金を払います。

 

しかし、同じ intangible(見えない)なサービスであっても

  • メンター
  • コーチ
  • カウンセラー
  • コンサルタント
  • セラピスト

といった類のサービスになると、日本人はあまり世話になろうとしません。

つまりお金を支払おうとしない。

 

また、ISO などの「認証」も、intangible(見えない)サービスに属しますが、「積極的に認証を取って経営に生かそう」と考える経営者は限られています。

「他社が取っているからウチも取らなければ」

「認証を取っていないと生き残れない」

といったきわめて消極的な理由で対処する経営者がほとんどです。

 

むろん、昔に比べると日本人の意識もずいぶんと変化した感はありますが、それでも

「intangible なものにお金を払うのを渋る」

という性質は根強く残っています。

 

いっぽう、アメリカでは…。

いや、決して「アメリカは進んでいて日本は遅れている」的なことを言いたいのではありません。

しかし実際、アメリカ人はこうした形のないサービスにお金を払うことに抵抗がない国民性らしく、

「メンターと契約している」

「行きつけの精神科医のカウンセリングを定期的に受ける」

といった個人がたくさんいます。

 

日本人の場合はその逆の人が多いようです。

  • メンター
  • コーチ
  • カウンセラー
  • コンサルタント
  • セラピスト
  • 認証サービス

といった概念はどれも日本人が作ったものではありません。

「intangible なものにお金を払うのを渋る」日本人は、こうした発想をしないのです。

「見える」と「見えない」の組合せ

そのことの是非はともかく、日本人を相手に目に見えないサービスをビジネス化するときは

「tangible と intangible を組み合わせる」

といった工夫をするとよいかもしれません。

「硬軟織り交ぜる」感じで。

 

よくある例でいうと、ヘルスケアのカウンセリングを展開したいとき、

「カウンセリングそのものをサービスとして打ち出す」

という方法もありますが、

「カウンセリングをしながらサプリメントを販売する」

という方法もあります。

 

後者は、

「サプリメントも扱っているカウンセラー業」

であるともいえるし、

「カウンセリングもできるサプリメント販売業」

であるともいえます。

 

同様の例をいくつか挙げておきます。

 

「キャリアカウンセラーが、自己分析ツールを販売しながらカウンセリングを提供する」

「オンライン料理教室で、レッスンと同時に食材キットを販売する」

「ドッグトレーナーが、トレーニング方法を指導しながらおすすめのペット用品を販売する」

「フィットネスウェア販売もするパーソナルトレーナー業」

「園芸用品を販売するガーデニングコンサルタント業」

 

このように、目に見えないサービスだけでは価値が伝わりにくい場合でも、物理的な商品と組み合わせることでビジネスが成立しやすくなります。

ビジネスモデルの作り方のコツの1つ、と言えるかもしれません。

AIと「見える化」の新しい可能性

ここまで、tangibleとintangibleの組み合わせについて見てきました。

そして今、AIの登場により、この「見える」と「見えない」の関係に新しい可能性が生まれています。

 

特に注目したいのは、AIを活用することで、これまで「見えなかったもの」を「見える化」できるようになってきた点です。

たとえば、カウンセリングやコンサルティングといったintangibleなサービスも、AIの力を借りることで、より具体的な形に落とし込むことができます。

 

具体例を見てみましょう。

メンタルヘルスカウンセラーの方の場合、従来は「カウンセリング」という目に見えないサービスだけを提供していたかもしれません。

しかし今は、AIを活用して、クライアントとの会話内容を分析し、その人の心理状態の変化を可視化したレポートを作成することができます。

これにより、抽象的だった「心の変化」が、グラフや数値という具体的な形で示せるようになります。

 

ビジネスコンサルタントの方であれば、クライアントの経営課題についてAIと対話を重ねることで、より具体的で実行可能な解決策を導き出せます。

さらに、その対話プロセス自体を「見える化」して提供することで、単なるアドバイスではない、より確かな価値を示すことができます。

 

つまり、AIは「intangibleなサービスをtangibleに変換するツール」として機能します。

 

このアプローチは、個人事業主やスモールビジネスのオーナーにとって、特に有効です。

なぜなら、目に見える成果物があることで、サービスの価値を顧客により分かりやすく伝えられるからです。

 

たとえば、「インハウスAI」を活用すれば、コンサルタントの知見や経験を、具体的な診断レポートやアクションプランという形で提供できます。

あるいは、「分身AI」を通じて、専門家の知識やノウハウを、24時間いつでも活用できる形に変換することもできます。

 

さらに興味深いのは、AIを活用することで、これまで「見えなかった価値」を新たに創造できる可能性です。

たとえば、顧客の声をAIで分析することで、潜在的なニーズを可視化したり、商品開発のヒントを得たりすることができます。

 

このように、AIは「見える」と「見えない」の境界線を曖昧にし、新しいビジネスの可能性を広げるのです。